福祉つぶし



~『否決』の15年史~

1991. 4
岩川氏、町長初当選
94. 3
岩川町長、「ケアポートたかのす」計画関連予算を町議会に提出。計画推進を求めて5日間で町内有権者の65%にあたる11,578名の署名(写真)集まるも、野党多数の議会が否決
94. 5
岩川町長、ケアポート計画内容を若干見直して町議会全員協議会に説明するも同意得られず計画断念。(日本船舶振興会からの15億円の紐の付かない補助金ドブに捨てる)
94. 9
多数野党の町議会、地方自治法百条「調査特別委員会」を設置して町長のアラさがし。7ヶ月にわたる名誉毀損的調査
95. 4
岩川町長が藤嶋健一氏破り2選
96. 2
岩川町長、新たに「ケアタウン」計画関連予算議会に提出。多数野党が否決
96. 3
町議会選挙。与野党拮抗
96. 6
岩川町長、ケアタウン計画を見直し議会に再提出。僅差で与党多数となり可決
99. 4
町長選挙、無投票で岩川町長3選
2000. 3
町議会選挙
03. 3
議会、新年度一般会計予算のうち、たかのす福祉公社への運営費補助金8千万円(専務、事務局長ら幹部人件費等)を全額削除
03. 4
町長選挙で岸部氏初当選
03. 5
飯田専務ら公社幹部辞任、事実上の解雇
03. 6
岸部町長、ミニデイサービス事業廃止、紙おむつ支給を見直して一部支給に。補助器具リース料値上げ
03. 9
町議会、地方自治法百十条「調査特別委員会」〔途中百条に切り替え〕設置し、たかのす福祉公社のアラさがし。7ヶ月の名誉毀損的調査
04. 12
町社協、町から指定管理者に指定され(公募なし)独立採算の道へ
05. 2
町社協、つなぎ資金なく役員全員辞任
05. 3
岸部町長「鷹巣町痴呆グループホーム設置条例」廃止案を議会提出。可決
05. 3
町村合併で北秋田市誕生
05. 4
北秋田市初の市長選挙、岸部氏当選
05. 4
介護保険上乗せサービス利用料(上限なしの1割負担だった)やめ、限度額を超えた分は全額自己負担に
05. 6
岸部市長、「高齢者安心条例」廃止案を議会提出、抵抗多く継続審議に
05. 7
介護慰労金を全市で支給、1家族に月1万円。(心ある自治体はこの種のバラ撒き福祉を止め福祉資源充実を図ってきた。北秋田市は福祉貧困時代に逆戻り
05. 9
岸部市長、354床事業費88億円の北秋田市民病院(仮称)構想を議会に示す。(福祉切り捨て大病院造りに邁進)
05. 9
「高齢者安心条例」廃止案可決



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ネットワーク「市民の声」は、岸部陞北秋田市長に対して行政文書の開示を請求しました。その結果開示された文書によると、岸部市長が進めている市民病院建設計画は、これまでの説明とは大違いの「法外な市民負担」を伴うものであることがはっきりしました。
また、岸部市長は「北秋田市医療整備基本構想」(以下、「基本構想」という)に基づいて市民病院建設を進めることを議会や市民に約束したのですが、実際には、「基本構想」を逸脱した病院つくりをひそかに進めてきたこともわかりました。
岸部市長は、首長になる前は厚生連傘下の北秋中央病院長としてその運営を担っていました。そして今は市長として、かつて自分の職場であった病院を市民病院に造り替え、厚生連を指定管理者に指名するつもりです。岸部市長は、議会において、『法外な市民負担』や『基本構想を逸脱した計画推進』の事実を隠した答弁を繰り返してきました。
問題は、その大々的な病院の新築作業を進めるにあたって、市民に甘い夢を振りまきつつ、その一方で大事な情報はひた隠しにしながら、途方もなく巨額な血税をつぎ込もうとしている点にあります。

法外な市民負担

この新病院建設話は次のような経過をたどって浮上しました。
老朽化した厚生連北秋中央病院(旧鷹巣町)の建替えが計画されたとき、当時、同病院の院長だった岸部陞氏は、赤字に悩む公立米内沢病院(旧森吉町)との統合を提案しました。病院経営から手を引きたい米内沢病院の管理者はこれに賛同し、関係自治体が統合病院建設のための資金の一部を補助する方向で、話が進められました。
ところが岸部院長は、鷹巣町長選に出馬して当選した途端に、新病院は公設民営にしようと言い出したのです。それから二年後、合併に伴う選挙で誕生した岸部市政は、市民病院構想なるものを発表しました(平成17年4月)。
そもそもは公立病院から手を引くつもりだったはずの話が、いつのまにか、公立病院をつくる話にすり変わってしまったのです。
何故こうなったのか。
医療の専門家でもある岸部市長の説明に、議会も市民も丸め込まれてしまったのです。口車に乗せられたというのが当たっているかも知れません。
市長としての答弁にはこんな発言があります。
「病院は黒字になる。高度医療病院をつくり、医師も確保する。大丈夫、自信がある」
「建設費も厚生連から負担金を貰うので黒字になる」
その発言によると、総事業費は約88億円だそうです。でも、私たちの調査の結果、88億円で済む話ではないことがはっきりしました。これは、返済利息を含めると約120億円になります。それ以外にも、医療機器代20億円、土地関係費6億円、取り付け道路工事費30億円、……これらを含めると約180億円にもふくらみます。さらに、最近になって、浄化槽設置費用が全く見込まれていないことも分かりました。
その上、私たちが市に情報開示を請求した結果、とんでもない事実が明らかになったのです。
岸部市長は、市民病院の指定管理者に予定している厚生連に対して、「赤字が出た時には市が補てんする」ことを密かに約束していたのです。それまでの市長の言動からすれば、指定された管理者が赤字を背負うのが筋です。なにしろ、福祉公社に対する市からの出費にはばっさりと大ナタを振るい、新病院についても「厚生連から負担金をもらうので黒字になる」と公言して『市の負担ゼロ』を強調してきたのですから。
しかし実際には、裏で市の負担を約束していた。これは、市民を欺くご都合主義というべきでしょう。
それだけではありませんでした。市民病院がオープンした場合に北秋中央病院は廃院になるのですが、その『幽霊病院』が稼ぎ続ける推定利益相当額まで「市が補てんする」と、約束していたのです。
これらの約束は、両者の間で正式の文書になっています(平成18年1月31日締結「指定管理者準備協定書」)。
2006年5月30日になると、厚生連は新たな提案を岸部市長にしました。
北秋田市に支払う厚生連の負担金(約74億円)を、25億円程にまけろと言うのです。50億円程を値切るよう持ちかけたのです。
厚生連の負担金つまり市に支払うべきカネは、すでに「基本構想」にも盛り込まれている重要な決定事項です。仮に、この減額要求を岸部市長が認めた場合、180億円に止まらず、230億円と超・超巨額の事業になります。しかも、毎年「赤字補てん」するとなれば、300億円を突破する可能性も出てきます。
表向き「市民負担ゼロ」の計画が、実際に裏で進められてきたのは、「市民負担200億円以上」なのです。200億円負担とは、現人口で考えると赤ん坊まで含めて市民一人当たり50万円という気の遠くなるような額です。もちろん1代で背負えるわけもありませんから、負担は孫子の代に及ぶことになるでしょう。

ずさんな計画

市民病院建設は、昨年4月、北秋田市が「基本計画」を策定したことによって実現に向けて動きだしました。同年9月には、800万円をかけた「基本構想」もできました。
岸部市長は「基本構想」を議会と市民に説明し、議会もこれを了承しました。
「基本構想」は、「経常損益は黒字」「指定管理者負担金により、建設費は行政の持ち出し無し」と言う「市民負担ゼロ」が前提のはずです。
市民病院の一般病床は300床で、この中には廃止されるであろう厚生連北秋中央病院の病床数に見合う分も含まれています。そして、指定管理者には厚生連が最初から予定されています。
2005年9月29日、岸部市長は、厚生連に対して「基本構想」を説明しました。その段階から計画推進の様子がおかしくなりました。
説明を受けた厚生連が、「基本構想」に異を唱えたのです。「基本構想」の骨格部分の変更をも含む提案・要望を出してきたのです。市に大幅な財政負担を求めてきたのです。
   まず基本構想について、「経営に対して責任の持てる内容から乖離している内容」「当連合会でも医師充足確保が困難」(厚生連要望書)と言及して、「基本構想」が人的・財政的にみて実現性が乏しいことを指摘してきたのです。
これに対して岸部市長は、「基本構想」に基づいて進めるのが市長の本務であるにも拘らず、密かに「赤字補てん」「財政支援」を約束し、厚生連の要望を呑んでしまったのです。
厚生連は次のように、「基本構想」の骨格部分に変更を求めています。
(1) 常勤医師25名に変更(「基本構想」は33名です。医師の確保状況により、科の構成、病院規模、医療機能、職員配置、医療機器が決まるので、「基本構想」と開きが出るのはあきらかです)
(2) 病床数330に変更(「基本構想」は354床です)
(3) 病棟数の削減
(4) 診療科の削減

3月7日、市は基本設計を日建設計に発注しました。完成版は、9月末日が提出期限になっています。ところが8月28日、岸部市長は議会に対して、病床数、診療科などの削減、変更を唐突に説明しました。
それは、市民病院の基本構想が崩れたことを意味します。計画を縮小すれば、図面は変わります。発注から約半年の間、日建設計がやった仕事は一体どうなるのでしょうか。
医師数、診療科、病床数、病棟数の変更は、建設事業費、医業収益、起債額、一般経費など、病院建設関連事業費全てにも大きな影響が出ます。
余りにも「ずさんな計画」ではありませんか。

不誠実な議会答弁

岸部市長はこれまで「身の丈福祉」を唱え、旧鷹巣町がつくりあげた高齢者の安心を保障する福祉システムを次々と破壊してきました。岸部市長の政策の根底にあるのは、福祉に市のカネは使わず、介護報酬だけで全てを賄うべき、という考え方です。
病院建設でも、当初は同じ考え方で進めるそぶりでした。岸部市長は議会でこう断言しました。
「(市民病院には)、公社のような負担金は無い」。市民病院に市はカネを使わないので、診療報酬だけで賄わなければならないという意味です。そこで、次のような議会答弁になります。
「病院は、初年度から約2億円平均黒字になる」「救急救命センター、癌治療は採算も十分合う」「精神科は、交付金がくるので赤字にならない」「外来単価が倍になり、収入は減らない。経営的に心配ない」
一方、市民病院建設のための「基本構想」には、指定管理者が北秋田市に支払う負担金として①「減価償却費相当額」②「病院事業債返済利息の1/2」の2点が明記されています。つまり、誰が指定管理者になろうと、市に対する出費義務があるということが明記されているのです。
岸部市長の議会答弁はこうなります。「厚生連から毎年減価償却費を貰うので39年間で5100万円残る」「子孫に借金は残さない」
繰り返しますが、岸部市長は、北秋田市民の誰もが心配する病院財政に関して、「黒字経営になる病院で、建設費の借金返済も厚生連からおカネを貰うので、子孫に借金を残すことはない。それが市民病院だ」と公的な発言を繰り返してきたのです。

ところが私たちに情報開示を請求されてしぶしぶ出した資料によれば、甘い公式発言の裏で厚生連に対して特段の配慮を約束していたのです。厚生連を指定管理者に指名し、運営に当たっては「市からの赤字補てん」「市が中央病院の利益相当額分を補てん」まで約束していたのです。このことを謳った正式な文書も交わしていたのです。(準備協定書H18.1.31)
準備協定書締結後、さらに厚生連は岸部市長に対し、指定管理者が支払い義務を負う減価償却費相当額などの負担金の支払いを拒否し、それに変わる新たな提案を行いました。
岸部市長は、市民病院建設計画の根幹に触れる重大な変更が生じたにも拘らず、その後の議会答弁でも「(市民病院は)外来450人にすると毎年黒字」「外来数は少なくしたほうが経営的によくなる」「減価償却費をいただくのは当然。厚生連にとって負担ではない」「準備協定書は、お互いに準備のためにがんばりましょうという協定書」などと相も変らぬ市民を愚弄した発言を繰り返しています。

以上のような岸部市長の病院建設話は、悪徳商法のセールス手口に似ています。
まずは善良な市民に、興味を引いてもらえそうな高価な商品『新しい高度医療病院』が提示されました。「みなさんの家計には負担はかかりませんよ」という言葉に市民は安心しました。
こんなうまい話、当然、市民は身を乗り出します。そこで、売買契約に向けて話が進みます。
交渉する市長は表向き買い手代表です。ですが、裏では売り手とじっこんの関係にあります。なにしろ、かつては売り手側の職場の最高幹部だったのですから。
契約書には例によって、細かい字で消費者の負担義務が書かれていますが、普通の市民はそこまでチェックしません。
かくして、買い手が我に帰ったときには法外な負担が……というわけです。

この商談は、今も、着々と進行中です。市民のみなさんは、もっと強い関心を寄せていただきたいと思います。孫子の代に累を及ぼさないためにも。